韓国人シンガーKが日本の伝統を旅する
「竹のある生活は日本の原風景」
第11回 京銘竹 竹雑貨「TAKENOKO」店長・田中めぐみさん、横山竹材店4代目・横山裕樹さん
横山 今日はうちのとっておきの最新の竹をお見せします。実は燃えない竹(防炎竹:日本防炎協会/消防庁認定)を作りました。火にかけてみますね。
K 燃えないんですか?
横山 燃えていないですよ。燃えるというのは、火があがるということですが、防災竹は黒くはなりますが、まったく燃えません。
K なんでこういうものを作り始めたんですか?
横山 日本の消防基準法や消防法によって、建築内装材に対しての基準があります。燃える素材を使えない場所がいろいろとあります。たとえば、ホテルや旅館などで、竹を印刷した壁紙が使われているのを目にします。そこでは燃える竹は使えないということなんですよ。
K 悲しいですね。
横山 2020年に東京でオリンピックが行われることになり、今まで以上に海外の方が日本へやってくると思うんです。彼らが伝統的な建物を見たときに、そこに竹が印刷された壁紙を使われていたら、とてもがっかりされると思うんですよね。僕がこの家業を始めて11年なんですが、この伝統工芸を守るために「国の法律が悪い」といことではなく、僕らが歩み寄って、なんとか法律をクリアできないかと研究しました。
K 面白いなぁ。燃えないというのが不思議ですね。
横山 燃える心で作ったんです。
K (指を鳴らす)いただきました(笑)
横山 伝統ということを意識せずに、研究を続けました。その過程でうまく行かないことも多くて、行き詰ったときに、救ってくれたのが伝統だったんです。京銘竹の歴史、伝統的な技法が僕の問題を解決してくれたんです。細かいことは言えないんですけれど(笑)。伝統の上にあぐらをかかず、伝統の上で努力をすれば、また伝統が救ってくれるんだというのを強く感じましたね。
「お金を残すのは下(げ)、
人を残すのは上(じょう)」
K 横山さんがこれからやりたいこと、守りたいものは何ですか。
横山 基本的には先代がやったことを残すのが僕は基本的なことだと思っています。根底にあるのは、「なんのためにやるのか」ということ。文化を守るためというのも大事なひとつ。使うべき竹がないから茶室が建たないということはあってはならない。そういう気持ちで、ここまでの10年あまりをやってきました。
日本の格言で、「お金を残すのは下(げ)、技術を残すのは中、人を残すのは上(じょう)」というのがありますが、やっと最近になって、人を残すことの意味が若干見えて来た。最初、継いだ直後は、「お金を残すんが一番えらいだろう」と思っていたんですよ(笑)。
K 会社を残さなくちゃいけないですものね。それにしても横山さんの工場には若い人が多いですよね。
横山 弊社は京都で一番平均年齢が低いですよ。加工も竹を編むことも若い人たちにゆだねることで、技術継承し、技術を持っている人間を残していけると思うので。今、そういう想いでやっていますね。
K 先ほどの燃えない竹。金属など燃えない素材で、竹のようなものを表現すればすごく簡単だと思うんですけど、本物の生きている竹を使うということに、なぜそこまでこだわったんですか?
横山 そこに竹が使われていたのは、それなりの意味があってのことだと思うんです。他の部分、木が使っているところが朽ちていくのに、金属やプラスチックの場所は朽ちてこないというのは不自然だと思うんです。よく茶室を建てられたお客様が弊社にこられて、「竹垣を作りたいが、本当の竹は腐るでしょう」と心配される。でも茶室がだんだん古くなっていくのに、プラスチックの竹垣ガキがあるのは、本末転倒だと僕は思うんですよ。特に京都は侘び寂びの世界なので、朽ちていく姿も侘びであり、寂びでなんです。やっぱり、日本の風景とか文化を守るためには、もともと竹を使っていた場所であれば、竹を使って頂きたいという強く思いますね。
K 確かに、いっしょに歳をとっていくという感じはしますね。歴史とはそういうものなんですよね。朽ちることもなく、時が止まったように変わらないものに対しては、歴史を感じないし。その時代、時代の空気、気温も変わったりするわけじゃないですか。人間も歳をとっていく。だから、それとともに変化していくことに生きているということを感じるんですよ。